2008年07月24日

『巨匠とマルガリータ』ミハイル・ブルガーコフ 池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 水野忠夫訳(河出書房新社)/2008年


巨匠とマルガリータ
著者名:ミハイル・ブルガーコフ(著)
     水野忠夫(訳)
     池澤夏樹(編集)
出版社:河出書房新社
出版年:2008.04
ISBN :9784309709451


面白い。抜群に面白い。ハチャメチャに面白い。
こんな話を書く作家がいてくれることに感謝したい。
ブルガーコフもまた、スターリン政権下で苦しんだひとりである。
スターリンはブルガーコフの書く舞台作品を、ことのほか気に入っていたという。ブルガーコフのどこを気に入っていたかは、まったくわからない。だから、ときに絶賛され、ときに批判の矢面に立たされる。まさにいたぶられている。
そんな気分屋ともいえる、あるいは分裂病ともいえるスターリンに対抗するには、常に警戒と鉄壁の防御、そしてアイロニーを必要とした。
この『巨匠とマルガリータ』もまた、そんな複雑さで満たされている。簡単には読みとけない。が、それでもある種エンターティメントとして抜群に面白い。
「ああ、モスクワが!」と、何度叫びそうになったか。
この面白さは、ブルガーコフが舞台作品を多く手がけたことによるものだと思われる。劇作家で、そしてこれほど小説において気品高く想像力を花開かせた作家を他にあまり知らない。
それでも、この作品はスターリンの琴線に触れたと思う。ブルガーコフが、机の引き出しに隠し、書きつづけたことは正解だったかもしれない。
「原稿は燃えないものなのです」という作中の言葉も、そう簡単に解釈はできない。
悪魔が支配するモスクワの数日。そこで何が起き、それがどのように書かれているか、これは読むしかない。
水野忠夫さんの全面改訳による本書ならば、600頁にも及ぶこの長編もあっという間だろう。そして、読み終えてすぐ、悪魔の次の来訪を心待ちしている自分を発見して驚いているかもしれない。
posted by NIHEI at 15:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学/ロシア・東欧

2008年07月10日

エイヘンバウム編『ペテルブルグ物語』ニコライ・ゴーゴリ 船木裕訳(群像社)/2004年


ペテルブルグ物語
著者名:ゴーゴリ(著)
     船木裕(訳)
出版社:群像社
出版年:2004.07
ISBN :9784905821267


長く生きててよかった、などと思うことなど、ほぼないといっていい。
だが、今回ゴーゴリのものをまとめて読んで、ちょっとそんな思いにかられた。
ゴーゴリは遠い昔から読みたいと思っていた。不思議なことに、それが何十年もつづいた。こんなケースは、他にない。読まなければと思って、読んでないものはたくさんある。でも、焦がれるようにして読みたいと思っていたにもかかわらず、読んでいないものなど他にはない。
ゴーゴリの『鼻』をショスタコーヴィチは、オペラにしている。
ショスタコーヴィチに魅かれていくうちに、スターリン時代の芸術家、ロシア・アヴァンギャルト、そして19世紀ロシアのものとさかのぼっていくなかで、ついにゴーゴリに出会うことができた。
新訳がではじめていることも拍車をかけた。
ゴーゴリは笑いの人といわれるが、そうは思えない。舞台作品『検察官』の影響かもしれない。舞台作品の場合、より直接的な検閲にさらされ、そしてエンターティメントとして大衆に支持されもしなければならないことから、より笑いの要素は強くなる。
だが、それはアイロニーの笑いだ。それは、小説では残酷なまでの冷たさで展開される。このアイロニーが、ショスタコーヴィチまで受け継がれている。(ショスタコーヴィチと同時代人のブルガーコフの小説には、それはより顕著にあらわれている)
このアイロニーをふくんだ世界へのまなざしこそ、現在の日本にもっとも欠けているものかもしれない。
そして、世界へのまなざしの正確さと、そこから生まれる異常な想像力。ある意味では、分裂病患者のまなざしである。
実際、彼は精神的な疾患をもち、悲惨な最期を遂げたという。
ゴーゴリは、作家生活の最初と最後に、自らの原稿を焼いている。
この異常な行動に、僕は興味をひかれてならない。
ルオーという画家も、自らの作品を大量に焼いている。
この極限の行動へかりたてる源泉を知りたい。
しばらく、ゴーゴリを読みつづける生活になりそうだ。

手元にあるゴーゴリの著作は、下記のとおり。
* 『検察官』船木裕訳(群像社)2001年
* 『結婚』堀江新二訳(群像社)2005年第二版第1刷
* 『狂人日記』横田瑞穂訳(岩波文庫)2006年第26刷
posted by NIHEI at 21:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 文学/ロシア・東欧
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