2008年07月22日

『磔のロシア スターリンと芸術家たち』亀山郁夫(岩波書店)/2003年第6刷


磔のロシア
著者名:亀山郁夫(著)
出版社:岩波書店
出版年:2002.05
ISBN :9784000244107


亀山さんは、もともとドストエフスキーを専攻していた。
だが、すぐれた先人たちによってドストエフスキー研究に入れる余地がなかったという。
そこで、ロシアであまり手をつけられていないロシア・アヴァンギャルド、特にフレーブニコフの研究に入る。
その後、マヤコフスキーやマレーヴィチなど、ロシア・アヴァンギャルドの研究に入ってゆくなかで、スターリンと芸術家というテーマを発見する。
これを「スターリン学」とよんだ。
その集大成が本書であり、大仏次郎賞を受賞している。
このテーマは非常に興味深い。
だが、危うい部分も或る。
このテーマで書かれた次の『熱狂とユーフォリア』、そして『大審問官スターリン』で遂にその危うさが露呈する。
その危うさは、スターリン自身を主人公として描きたいという誘惑に抗しきれないところに、よくあらわれている。
この危険なロマンチシズムを、亀山さん自身よく自覚している。
そのことは、最新刊の佐藤優氏との対談『ロシア 闇と魂の国家』(文春新書2008年)の序文に、激しく書いている。
それでも、このテーマは重要である。
多くの貴重な示唆に富んでいる。
実際に、亀山さんとは二度ほどお会いしてお話をうかがった。
とてもナイーブな人だった。そのナイーブさは先にも触れた危うさも感じさせるのだが、開かれているために不思議なバランスも感じた。
それは、本書の冒頭にもよくあらわれている。
1930年代のスターリンの大テロル時代と9.11に象徴される現在のテロとの比較。
それ以外にも、あまり紹介されない多くのロシアの芸術家を知ることができるのも貴重である。
僕が亀山さんから教えてもらって今最も興味をもっているのは、詩人のフレーブニコフ、画家のブルーベリとフィローノフ、音楽家のメトネル、そして思想家のフョードロフ。
亀山さんはいま待望のドストエフスキーの世界に戻られ、新訳の『カラマーゾフの兄弟』が大ベストセラーになっている。

手元にある亀山さんの著作は、下記のとおり。
* 『熱狂とユーフォリア』(平凡社)2003年
* 『大審問官スターリン』(小学館)2006年
* 『終末と革命のロシア・ルネサンス』(岩波書店)1993年
* 『ロシア・アヴァンギャルド』(岩波新書)1996年
* 『ロシア 闇と魂の国家』(岩波新書)2008年
* 『NHK知るを楽しむ 悲劇のロシア ドストエフスキーからショスタコーヴィチへ』(日本放送出版協会)2008年

2008年05月26日

『犠牲 サクリファイス わが息子・脳死の11日』柳田邦男(文春文庫)/1999年


犠牲
著者名:柳田邦男(著)
出版社:文藝春秋
出版年:1999.06
ISBN :9784167240158


これもまた辛い本である。
僕はずっと脳死についてのルポルタージュだとばかり思っていた。
まさか自分の25歳になる息子が自殺を図り、脳死に至ったこととは思ってもみなかった。
ルポルタージュ作家の柳田邦男氏は、脳死の倫理問題についても発言が多かった。
だが、息子の脳死という悲痛な状況に直面し、少しづつその考え方が変わってゆく。考え方の主体が、脳死者の家族の方へ移行してゆく。
悲しみを通じて、「だれかの問題」から「自分の問題」へ、そして「私たちの問題」へと深く広がってゆく。
冷静な筆致のなかで、その変化は感動的だ。
サクリファイスとは、亡命ロシア人監督タルコフスキーの『サクリファイス』からきている。
絶望のなかでの人々の祈りの行為を描いたこの映画のオープニングには、バッハの『マタイ受難曲』が流れる。
この本を読みながら、僕もまた『マタイ受難曲』を聞いていた。

2008年04月17日

『パレスチナとは何か』エドワード・W・サイード(岩波書店)/2003年5刷


パレスチナとは何か
著者名:エドワードW.サイード(著)
     島弘之(訳)
出版社:岩波書店
出版年:1995.08
ISBN :9784000029674


エドワード・サイードは、『オリエンタリズム』を通じて、ポスト・コロニアル理論を確立した。
サイードの魅力は、弱者、そのマイノリーティのまなざしから世界を見直すところにあることはいうまでもない。現在、世界を席巻しているアメリカのグローバリズムに対して、今でも大きな可能性と力をひめている。
それに加えて、サイードの個人的キャラクターの魅力も大きい。
この『パレスチナとは何か』は、写真家のジャン・モアとの共著といってもいい。そのなかで、サイードの隣人としての親しみは、やはり大きな魅力だ。
十年以上前の本ではあるが、今でもまったく古びていない。
それは、パレスチナの状況が悪くなることはあっても、よくなることはないことを、逆に証明しているようなものなのだが。
パレスチナへの入門書としても、お勧めの一書である。

手元にあるサイードの著作は下記の通り。
* 『知識人とは何か』(平凡社ライブラリー)2004年6刷
* 『戦争とプロパガンダ』(みすず書房)2002年3刷
* 『戦争とプロパガンダ2-パレスチナはいま』(みすず書房)2002年
* 『戦争とプロパガンダ3-イスラエル、イラク、アメリカ』(みすず書房)2003年
* 『戦争とプロパガンダ4-裏切られた民主主義』(みすず書房)2003年
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